いじめ対応についての解説2
- 森田智博

- 4月17日
- 読了時間: 4分
1.いじめは「いつ」「どこでも」「誰にでも」起こり得る問題
いじめは、特定の子どもや特定の学校だけに起こる特別な事象ではありません。文部科学省の調査によれば、いじめの認知件数は全国の小・中・高等学校で年々増加傾向にあり、また、どの学校種・地域でも一定数のいじめが確認されています。
このことは、いじめはどの子どもにも起こり得る現象であることを意味しています。子どもたちの間でのちょっとしたすれ違い、からかいといった関係性の変化が、次第に恒常化・深刻化し、深刻ないじめに至るケースが少なくありません。
したがって、大人は「うちのクラスには関係ない」「うちの子には関係ない」と思わずに、子どもの人間関係を丁寧に見守る視点を持っていただくことが、学校との連携においても極めて重要になります。
2 学校の対応
現在、全国の多くの学校では、いじめ対応の基本的方針として、単に加害者を罰したり、被害者を保護するだけではなく、子どもたちが自らの行動を振り返り、関係性を再構築する経験を通じて、社会的スキルや共感力、自律性を育むことを目的とした方法がとられています。
この方法論の根底にあるのは、「いじめを単なる非行や犯罪として切り離すのではなく、教育の一環として向き合うべき現象である」という考えであると思われます。
しかしながら、この教育的アプローチには次のような課題や誤解も存在します。
3 学校対応の課題や誤解 ― 保護者が感じる「遅さ」と「不透明さ」
この方法では、加害の子どもを罰したりするわけではなく、子どもたちが自ら変わっていくことを前提とするという特徴があります。
これは、被害を受けた子どもや保護者にとっては「対応が遅い」「曖昧な対応に終始している」と見えることがあります。
しかし、実際には次のような理由で慎重な対応がなされていると考えていただきたいです。
・子どもの発言は一貫性に欠けることが多く、複数の情報を丁寧に照合する必要がある
・表面上のトラブルに介入しても、背後にある人間関係や心理的要因を見落とすと再発しやすい
・「謝罪させる」「処分する」ことは、かえって子どもの反発や恨みを生む可能性がある
つまり、学校が重視しているのは、一時的ないじめの停止ではなく、再発を防ぐ本質的な対応だといえそうです。
とはいえ、深刻ないじめについては、このような方法では不十分な場合もありそうですし、実際に対応が遅いだけの学校もあることは事実です。
4 行政的アプローチの登場 ― 外部からの介入と「第三者性」の意義
近年、学校や教育委員会だけでいじめに対応することの限界が社会的にも認識されるようになり、「行政的アプローチ」と呼ばれる取り組みが各地で導入されています。
代表的な事例は、大阪府寝屋川市の「監察課」です。同市では、いじめの初期段階から市の職員(教育委員会所属ではない)が関与し、必要に応じて調査や指導、学校への勧告を行う体制を整えているようです。
おそらく、学校や教育委員会による隠蔽や遅延を防止する第三者性の確保、被害を受けた子どもや保護者の訴えに迅速に反応できる体制の整備などを実現するための体制であると思われます。
一方で、このアプローチにも懸念があります。たとえば、教育の中立性が政治的に左右されるリスクや、学校現場の専門家ではない大人が学校現場に介入することのリスク、学校と保護者との信頼関係が損なわれる可能性などがあると思います。そのため、外部の介入は慎重かつ適切なバランスのもとで行われる必要があると思います。
5 いじめ対策監制度 ― 岐阜市の取り組みと課題
岐阜市では、重大ないじめ事案を契機に、すべての市立学校に「いじめ対策監」を配置する方針を打ち出しました。いじめ対策監は、いじめの未然防止、早期発見、初期対応、保護者連携、そして再発防止策の検討といった役割を担います。
この制度の特徴:
各学校に配置された教員が専任的に対応(授業は講師が代行)
校内巡回やアンケート分析を通じて、日常的に子どもを見守る
管理職や他の教員とも情報を共有し、組織的に動く
必要に応じて保護者・関係機関との連絡も担当
このような体制によって、担任一人に対応を任せきりにせず、学校全体で組織的にいじめに向き合う土壌が生まれつつあります。
しかし、制度の継続にあたっては次のような課題も指摘されています:
対策監がベテラン教員に偏りがちであり、若手層の育成が不十分
対策監への業務集中により、校内での分担・連携がかえって弱まるケースも
講師配置にかかる多額の予算負担(大津市では年2.5億円)
対策監が「学校内部の人」であるため、完全な第三者とは言い難い


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