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日常と法律で異なる「いじめ」の捉え方-知っておきたいポイント 1

  • 執筆者の写真: 森田智博
    森田智博
  • 3月24日
  • 読了時間: 5分

更新日:5月1日

いじめの問題は、被害を受けた側にとっては深刻な苦痛を伴うため、“犯罪”のようにも受け止められがちです。しかし、その一方で「学校で起こりがちなトラブルの延長線上」といった認識で捉えられる場合もあるため、保護者の間には大きなギャップが生まれやすいのも事実です。ここでは、「いじめ=犯罪」というイメージに対する誤解を解きながら、「いじめ」の定義について解説し、自分の子どもが加害の立場になったときに極端に反応してしまう保護者の例について考えてみたいと思います。


  1. いじめ=犯罪? 誤解を生む理由

 苦痛の度合いが幅広い

いじめといっても、「軽いからかい」から深刻な暴力・脅迫まで、その内容はさまざまです。時に、いじめ行為が刑法上の暴行・脅迫などに該当し、警察が関与するケースもあります。


 報道やSNSでの印象

 「いじめによる自殺」など痛ましいニュースは強い衝撃を与えますが、その結果「いじめ=重大犯罪」というイメージだけが強調されやすいという側面もあります。もちろん深刻ないじめは社会問題と捉えるべきですが、だからといって常に「犯罪」として扱われるわけではありません。


 保護者が抱える恐怖感

 自分の子どもが被害に遭うのではないか、あるいは加害者になってしまうのではないか。そうした恐怖感から「いじめ=最悪の事態」を連想し、犯罪のように感じてしまうことがあります。犯罪のように感じてしまうと、いじめを行った側の保護者は「いじめ」を認めることに躊躇することになります。


  1. いじめ」の法律上の扱い

 いじめ防止対策推進法

 いじめは「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」と定義されており、学校の人間関係において何らかの苦痛を訴える子がいる場合、学校や教育委員会は早急に事実確認を行い、指導や支援を行う仕組みになっています。こうすることによって、いじめの被害の拡大を防ぐようになっています。決して、「いじめ」が生じたからといって、ただそれだけでいじめを行った側に何らかの法的責任が生じるとか、制裁が加えられるとかいうわけではありません。


 重大事態への対応

 被害生徒が不登校になったり、精神的・身体的に重大な被害を受けた場合には「いじめ重大事態」として扱われ、第三者委員会などが調査を行います。過去には報道されることになったいじめ重大事態も多く、社会的にも注目度が高くなります。

 そうしたこともあって、保護者や校内外から「犯罪レベルの問題では」と受け止められることも少なくないように思います。


3. 自分の子どもが加害者に?ー極端な反応の背景

 「うちの子に限って」と思いたい気持ち

 普段は素直な子どもがいじめを行うとは思いにくく、事実を聞かされた保護者は動揺します。「うちの子がそんなことをするわけがない」と否定したり、逆に「そんなに悪いことをしたならもう終わりだ」と我が子を過剰に責め立てたりすることもあります。

 しかし、子どもだけでなく、人間なら誰でも、家庭と家庭の外で見せる顔は違います。学校での集団内での立ち居振る舞い、学校でのストレスなどもあって、他の子が傷つくような言動をしてしまうことはよくあります。保護者の方たちにもそういった経験があるのではないでしょうか?


 社会からの非難が怖い

 いじめに対しては世間の目が厳しく、加害者やその保護者が強くバッシングされるケースもあります。そうした社会的制裁を恐れて、極端な反応をしてしまう保護者もいます。

 しかし、これまでも触れてきたように「いじめ」の定義はとても広いですし、そのように広い定義が採用されてい理由は、いじめの被害をできる限り少なくしようという点にあるのであり、いじめをできる限り広く犯罪として扱おうなどと制裁を加える点にはありません。


 誤解を解くために必要な視点

 ここまで触れてきたことからもおわかりになるかと思いますが、「いじめ=犯罪行為」と一刀両断にするのではなく、「子どもの人間関係でどのような問題が起こっているのか」「どこから先が学校や専門機関の介入が必要な問題なのか」を冷静に整理することが重要です。


4. 誤解を解くために保護者ができること

 事実関係の把握と冷静な対応

 いじめの状況を聞いた際、すぐに「犯罪だ」「終わりだ」と決めつけるのではなく、まずは学校や子どもから詳細を確認しましょう。加害行為があったとしても、程度や背景を把握しないまま強い言葉で責め立てると、子どもが萎縮し本当のことを言えなくなるケースがあります。


 学校や専門家への相談

 いじめ事案を学校が調査した結果、事態が深刻な場合には外部の専門家で構成される第三者委員会が関わることになります。また、必要に応じてスクールカウンセラーや児童相談所、弁護士(スクールロイヤー)などの専門家の力を借りることも検討します。外部の専門家の力を借りることは学校にとっても保護者のみなさまにとってもプラスになることがあります。


 子どもの立ち直りを支援する

 もし自分の子どもがいじめを行ってしまったときでも、見捨てるのではなく再発防止に向けたフォローが大切です。反省を促すと同時に、なぜそのような行為に及んだのか背景を探り、子どもケアや指導を受けながら立ち直る道をサポートしてあげてください。


5. おわりに

いじめは、被害者に深刻なダメージを与える重大な問題である一方、必ずしもすべてが「犯罪」に該当するわけではありません。法律や社会のルールの枠内で解決を図る一方で、いじめの背景には子ども同士の複雑な人間関係や、不安定な心の状態が隠れていることも多いのです。


保護者としては、いじめという言葉の重みにとらわれすぎず、まずは事実関係をきちんと整理し、学校や専門家と連携して解決策を探る姿勢が求められます。自分の子が被害者でも加害者でも、客観的な視点を失わず、子どもの心に寄り添いながら共に問題を乗り越えていく――それが、結果的に子どもを守り成長させることにつながるのではないでしょうか。

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