いじめ重大事態調査における「経過報告」-情報提供のあり方-
- 森田智博
- 4月17日
- 読了時間: 5分
1 対象児童生徒や保護者の不安
調査が進まない…保護者の「見えない不安」にどう応えるか
いじめの重大事態が発生し、学校設置者や教育委員会による調査が始まったとしても、被害児童生徒やその保護者にとっては、「調査が本当に進んでいるのか?」「自分たちは置き去りにされていないか?」という不安がつきまといます。
そのため、重大事態調査の際には「経過報告」が重要となります。
2 法やガイドラインの定め
法28条2項は、「学校の設置者又はその設置する学校は、前項の規定に
よる調査を行ったときは、当該調査に係るいじめを受けた児童等及びその
保護者に対し、当該調査に係る重大事態の事実関係等その他の必要な情報
を適切に提供するものとする。」としています。これは、経過報告について定めたものではなく、調査結果についての情報提供について定めたものであると理解されているようです。この規定は、「調査を行ったとき」の読み方によっては、調査を行い終わったときのみでなく、調査を行っているときも情報提供すべきであると定めているように読めますし、私自身もそのように読むこともできると思うのですが、多くの方はそのように読まないようです。
立法に関わった方の説明によると、この条文の趣旨は、①被害児童生徒が当事者としてその尊厳の保持及び回復のためには、当該事案に係る事実関係等を知る必要があり、通常、その保護者等は当該被害児童生徒の尊厳の保持及び回復を他の誰よりも切に願う者であるとともに、当該事案に係る事実関係を切に知りたいと願うものであるから、いずれも、自ら事案の調査を行う前提としての必要性も含めて、これらの情報を十全に知る必要のある立場にあること、②法が求めるいじめ事案への対処及び再発防止の実現が被害児童生徒等への十全な情報提供を基礎とした被害児童生徒等の協力がなければ不可能であることを踏まえたものであるとされています。
この趣旨からすれば、調査結果についてのみ情報提供すべきであり、調査の途中経過については情報提供してはいけない、ということにはならないと思われます。
この点、文部科学省の『いじめの重大事態の調査に関するガイドライン』(令和6年8月改訂)では、次のように、調査が長期に及ぶ可能性を前提に、調査主体が対象児童生徒や保護者に進捗状況を説明するよう定めています。
「調査の進捗状況に高い関心をもっている対象児童生徒・保護者の要望に応えることは調査主体の重要な役割であり、適切に経過報告を行うことが求められる」
ですので、調査の途中経過についても情報提供をすることになるのですが、調査結果と同じ程度の情報提供が必要なのか、悩ましいところです。
3 経過報告はどのようにして行うのか
(1)経過報告は誰が行うか
ガイドラインでは、次のように定めています。
「学校の設置者等は、調査中であることを理由に説明を拒むことがあってはならず、進捗等の経過報告を行うことが求められる」
では、経過報告として誰がどの程度の情報提供を行うべきなのでしょうか。
この点、ガイドラインでは、「設置者」が経過報告をすべきとしており、第三者委員会が保護者に直接経過報告を行うことに否定的なようにも読めます。その理由は、「」とされており、つまり、公平性・中立性が損なわれるおそれがあるためです。
そうだとすると、設置者と関係児童生徒や保護者との関係性が悪化しているなどの事情が存在し第三者委員会が経過報告する必要があり(必要性)、公平性・中立性が損なわれない(許容性)のならば、第三者委員会が経過報告をすることもできると思われます。
(2)経過報告の方法と内容
報告の方法としては、特に定めがないことから、先ほどの必要性・許容性を満たすのであれば、対面(オンラインを含む)、書面など適宜な方法で良いと思われます。
では、どの程度具体的な内容を報告するかですが、この判断も事情に応じて適宜な内容ということになるのではないでしょうか。
一般的には、アンケートを行ったとか、聴き取りを行ったとかで十分だと思われます。その理由は、アンケートや聴き取りを行う際には、関係児童生徒や保護者の意見を参考にする必要があること、「誰々からの回答はなかった」などと詳細な説明をすると調査の進行に支障が生じる恐れがあるからです。しかし、関係児童生徒や保護者との関係性によって、アンケートの回収率や聴き取りの人数なども報告し、できるかぎり関係児童生徒や保護者との信頼関係を築けるようにする必要があると思われます。
4 「中間報告」との関係
「経過報告」と似ている(同じ意味?)ものとして「中間報告」があります。いくつかの重大事態調査では中間報告が行われていますので、ご自身で調べていただければと思います。
私としては、「中間報告」は、調査が長引いたときに、中間的な結論を示す場合に用いるものだと考えています。たとえば、調査が長引いているため、関係児童生徒や保護者との信頼関係維持のために、認定結果までを報告することとして、学校や教育委員会の対応や提言については最終報告に回すということが考えられそうです。
しかし、この場合には、中間報告書を作成する必要がありそうですし、中間報告書に対して関係児童生徒や保護者から意見が出され、さらなる調査の長期化が生じることにもなりかねないと思われます。中間報告書を出すのであれば、より早急に調査結果を出すことが重要かもしれません。
また、最終報告書案を関係児童生徒や保護者に示し、あらかじめ意見をもらい再調査の可能性を下げることも行われます。私としては、こちらの方が適切ではないかと考えています。
5 まとめ
経過報告を行うことで、学校や教育委員会は「説明責任」を果たし、関係児童生徒や保護者の“知る権利”に応えることができます。調査の中立性、公平性、そして人権への配慮を同時に守る制度運用が重要だと考えます。
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