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子どもを中心に、保護者と学校が連携する―いじめ重大事態の早期発見と初動対応の要点

  • 執筆者の写真: 森田智博
    森田智博
  • 4月17日
  • 読了時間: 4分

更新日:4月26日

学校現場で最も重要なのは、「いじめの疑いを持ったらすぐ動く」という姿勢です。文部科学省のガイドラインでも、いじめ重大事態とは「深刻な被害が生じた疑いの段階」を指し、いじめの事実が未確定でも学校は積極的に調査し、適切な対応を行う必要があるとされています。


1. 「疑いの段階で動く」ための心構え

いじめの事実を確認していなくても、不登校や心身の不調に至った事案、物が無くなるなどの財産への被害などが見られたら「重大事態」の可能性を疑います。児童生徒が「ただのケンカ」と説明していても、いじめが存在するかもしれません。

一見「トラブル」に見えても、子どもが心身の苦痛を感じているなら、いじめに当たります。判断に迷う場合でも記録を取りながら調査を進め、「いじめではない」と決めつけない姿勢が大切です。


2. 初動対応の流れ:校内連携を強化

 認知

子どもからの相談・周囲の気付き・アンケートなど、入り口はさまざまです。文科省が実施している問題行動調査では、発見のきっかけは、学校・教職員によるものが最も多く(子どもが教職員に相談してくれたというものよりも、アンケートによるものが多いです。そういった意味では教職員が気づいたというよりも、本人や周りの子が訴え出てくれたと考えることもできます。)本人からの訴は少なかったとされています。また、重大事態のうち、40パーセント近くは、重大事態として把握する以前にはいじめとして認知されていなかったともされています。「これくらいは…」と楽観視せず、ちょっとしたきっかけがあれば、担任・学年主任・管理職で情報を共有することが重要です。

 緊急ミーティング・役割分担

担任や学年主任、校長・教頭、スクールカウンセラー等が連携し、早い段階で検討する必要があります。判断に悩んだ場合には、教育委員会や弁護士(スクールロイヤー)へ相談することも重要です。楽観視は避けてください。

 調査と記録

子どもへの聴き取りをオープンクエスチョンで行い、断定的・決めつけ発言は避ける。指導と聴き取りは必ず区別してください。いつ・どこで・誰が・何をしたのかを、時間軸を追って整理し、客観的事実と心理的事実を区別して記録することが重要です。


3. 聴き取り手法:オープンクエスチョンを活用

 オープンクエスチョンの例

「最初から最後まで、どんなことがあったのか教えてもらえるかな?」「そのあと、どんな様子だった?」

 時系列を重視する

話が前後しやすい子どもも多いため、流れを丁寧に聞き取ってメモする。

 やってはいけないこと

決めつけ:「●●したんでしょ?」

興奮させる:「落ち着いてよ」と強い口調で言う。

いらだつ:「もうわかったから!」


4. 保護者対応の基本

 「心理的事実」を受け止める

「不安や怒りを感じている」という保護者の気持ち(主観的事実)と、学校が確認できる「客観的事実」は分けて考える必要があります。ずは相手の感情(主幹事実)をしっかり受容することが重要です。その上で、客観的事実の確認を行いましょう。


 経過報告をこまめに行う

保護者の不安を軽減するため、聴き取り状況や見通しを随時共有する必要があります。「調査に時間がかかる理由」「次の面談の予定」など、相手が知りたい情報は先手を打って伝えることも重要です。


 外部連携の活用

深刻なケースや保護者の感情が収まらない場合は、教育委員会やスクールロイヤーなどに早めに相談することが重要です。学校では気づかないことに気付けるかもしれません。学校が当事者となってしまうと、物事を俯瞰して見えなくなってしまい、保護者との対立が深刻になることがあります。


5. 子どもを中心に据える

 共通のゴールを見失わない

学校と保護者が衝突してしまうのは、どちらも子どもを守りたい思いがある一方で、情報が食い違ったり、不信感が募ったりするからです。


 「子どもを主体とすること」を共通土俵に

「お互いに大切にしたいのは子どもの気持ちである」という共通認識を先に確認しておくだけで、ギャップを埋めやすくなります。


 保護者と学校が協力体制を築くメリット

子どもが自分の気持ちを話しやすくなったり、登校継続や心理面での支援など複雑な課題にも連携して取り組めます。学校だけでどうにかしようとするのではなく、保護者とも一緒に解決策を考えることが不可欠です。

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